次世代量子デバイス実現に向けて産学連携で「強相関電子材料」の研究開始
~「クロスアポイントメント」も活用し、早期の社会実装目指す~
2023年03月28日
住友化学は、このたび、環境に配慮したデバイスの実用化に向けて、次世代量子デバイスの重要材料の一つとして期待される「強相関電子材料」の研究開発を行うため、国立大学法人東京大学大学院工学系研究科(以下、東京大学)、国立大学法人東京工業大学(以下、東京工業大学)、国立研究開発法人理化学研究所(以下、理化学研究所)と、本年4月より各大学・研究所に研究拠点を設け、共同研究を開始することといたしました。研究員が複数の組織で研究開発を行うクロスアポイントメント※も活用しながら、プロジェクト間の連携を進め、研究成果の最大化や早期の社会実装を目指します。
電子同士が強く相互作用しあう物質群は「強相関電子材料」と呼ばれ、特にエレクトロニクス分野に革新をもたらす量子マテリアルとして注目を集めています。強相関電子材料は、数多くの電子が、電荷、スピン、軌道などを通じて複雑に相互作用し合い、通常の金属や半導体では考えられない高速、省電力、多機能性といった特性を有する可能性を秘めています。また、従来の材料系からは予想できない新しい物理現象も発現しうることが数々の研究結果により示されています。
この強相関電子材料を用いた産業利用の例として、超低消費電力で駆動可能な強誘電体メモリや磁気メモリなどの次世代メモリ、光や熱といった身近な環境にあるエネルギーを高効率で電気エネルギーに変換する環境発電デバイスなどが挙げられます。当社は、強相関電子材料を、省エネルギーと創エネルギーの双方に資する次世代の基幹技術と考え、材料および製造プロセスの開発、環境配慮型デバイスの実証研究に着手します。
研究開発にあたっては、本分野の基礎的な研究や応用研究に実績のある東京大学、東京工業大学、理化学研究所にそれぞれ研究拠点や連携講座を設け、原理探求・材料設計からコンセプト検証まで幅広く共同で研究に取り組みます。また、研究開発を加速させるため、当社から各拠点に研究員を派遣し、相互の研究開発の連携を図るほか、長年培ってきた無機材料の機能設計技術やデバイス設計技術、分析・物性評価技術などの広範なコア技術を融合することで、早期の社会実装を目指します。
※研究者などの人材が、大学や公的研究機関、企業のうち2つ以上の組織・機関に雇用されつつ、それぞれの所属先における役割に応じて研究・開発および教育に従事すること
1.東京大学の社会連携講座
<講座概要>
講座名 :「新しい物理現象を用いた次世代環境配慮デバイスの開発」
代表教員 :東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻 齊藤 英治 教授
設置期間 :2023年4月1日 ~ 2026年3月31日(3ヵ年)
<研究内容>
新奇な物理現象を開拓し、その原理を幅広く検証することで、これまでにない原理で動作する革新的な熱電変換デバイスや、超低消費電力で駆動しうる電流型誘電メモリなどに向けた材料開発、実証およびデバイス開発に取り組みます。具体的には、一部の強相関電子材料において結晶対称性の低下がもたらす新奇な物性に着目し、深い専門性とノウハウを有する東京大学と協働のうえ、現象の開拓、検証、および実用化を目指して取り組みます。
2.東京工業大学の協働研究拠点
<拠点概要>
拠点名称 :「住友化学次世代環境デバイス協働研究拠点」
拠点長 :東京工業大学 科学技術創成研究院 曽根 正人 教授
副拠点長 :住友化学株式会社 経営企画室 岡本 敏 研究企画統括
設置期間 :2023年4月1日 ~ 2026年3月31日(3ヵ年)
<研究内容>
強相関電子系の一つで、一つの物質の中で強磁性と強誘電性が共存する「マルチフェロイック物質」を用いて、超低消費電力で駆動可能な電圧駆動型磁気メモリデバイスの開発に取り組みます。材料設計のみならずプロセス設計や信頼性評価にも精通する東京工業大学の幅広い専門分野に加え、同大学が地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)と進める共同研究成果にも立脚しつつ、東京工業大学オープンイノベーション機構の支援のもと「住友化学次世代環境デバイス協働研究拠点」を設置し、産学連携を通じて、いち早い社会実装を目指します。
3.理化学研究所の「産業界との融合的連携研究制度」によるチーム
<チーム概要>
チーム名称 :「強相関材料環境デバイス 研究チーム」
チームリーダー :住友化学株式会社 経営企画室 岡本 敏 研究企画統括
副チームリーダー :理化学研究所 創発物性科学研究センター
強相関物質研究グループ 田口 康二郎 グループディレクター
創発光物性研究チーム 小川 直毅 チームリーダー
設置期間 :2023年4月1日 ~ 2028年3月31日(5ヶ年)
<研究内容>
近年、理化学研究所によってその理論解釈と実験実証が急速に進展した「バルク光起電力」と呼ばれる現象に注目し、エネルギー散逸が少ない高効率の新規光電変換デバイス(太陽電池、光センサーなど)に向けた材料開発、実証およびデバイス開発に取り組みます。加えて、超省電力で駆動可能な新原理の電圧駆動型磁気メモリデバイスに寄与しうる「マルチフェロイック物質」の材料創成と原理探求にも取り組みます。深い専門性とノウハウを有し、これまで数々の新しい物理現象を提唱・実証してきた理化学研究所と協働し、強相関材料を用いた環境配慮デバイスの実用化を目指した共同研究を実施します。
以上
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