技術誌 住友化学

2000年度

住友化学 2000- II(2000年11月25日発行)

最近、ポリオレフィン系素材は、軽量、低環境負荷性、易リサイクル性などの特徴から環境分野への展開が広がってきている。本稿では、機能性エチレン系共重合体、新規軟質ポリプロピレンおよびポリオレフィン系熱可塑性エラストマーを例にとり、それらを複合化することにより性能を発揮させている事例につき紹介する。
(page4~11by藤田晴教,白谷英助,杉本博之,柳瀬幸一,宮崎洋介)

野外からの微細藻類の大規模スクリーニングによって、高温、高CO2条件下で高効率にCO2を固定するChlorellasp.を取得し、本株の特性評価を行うとともに、遺伝子解析などにより新しいタイプのChlorellasp.である可能性を示した。さらに、高密度培養に適した色素変異株の育種、および、将来的なChlorellasp.の分子育種に向けた脂肪酸不飽和化酵素遺伝子のクローニングなどを行った。
(page12~18by村中俊哉,西出哲也,村上仁一)

環境意識の高まりの中、環境負荷低減技術の開発が進み、アルミナ製品の用途においても環境に貢献する応用例が広がりつつある。水質汚濁浄化用途では、吸着効果を持つ活性アルミナが、浄水からAs、Fなど毒性を有する元素の除去に利用されている。また、大気汚染浄化用途では、水酸化アルミニウムを焼却炉中に投入し生成する活性アルミナは、ダイオキシン類の発生抑制、飛散防止に効果を有することを見出した。活性アルミナハニカムや、ノンハロ難燃剤等とともにアルミナ製品を用いる環境負荷低減用途への応用例を紹介する。
(page19~27by友政敬雄,杉本昭治,山西修,新葉智,蘆谷俊夫)

土壌中には、植物の根圏に生息して植物の生育を促進させる作用を有する菌類が存在し、それらは植物生育促進菌類(PGPF)と呼ばれている。PGPFの中には生育促進効果ばかりか植物の耐病性を向上させる作用を有するものも多い。植物生育促進菌類入り資材(PGPF資材)とは、PGPFのなかでも特に効果の優れたフォーマ属の菌株を含有した農業資材であり、健苗の育成や土壌病害発生圃場での植物の耐病性の向上などに貢献することを目的としている。本稿では、PGPF資材の開発経緯、現地農家圃場での検討結果などについて紹介する。
(page28~34by大内誠悟,大平崇文)

PRTR制度導入の背景、OECD加盟国のPRTRへの取組み状況、日本化学工業協会のPRTRへの取組みとその内容、PRTR法の内容、PRTR法への対応と課題について述べる。
(page35~39by福永忠恒)

精密化学品の合成工程におけるホルムアルデヒド分析法を検討した。滴定法、吸光光度法、ガスクロマトグラフ法、液体クロマトグラフ法が適用可能であるが、方法の選択は、試料に共存する生成物が分解してホルムアルデヒドを生成しないようにしなければならない。検討した中では、前処理にアセチルアセトンを用いる温和な誘導体化法と吸光光度法あるいは液体クロマトグラフィーを組み合わせる方法が、共存する生成物からのホルムアルデヒドの生成を抑え、良好な選択性と感度を示すことがわかった。
(page40~44by田口敏,山本潔,吉田優美,吉村千鶴,広瀬崇,滝川宏司)

小型サルであるコモンマーモセットの安全性評価研究への導入を検討した。実験手技では、器具や試薬を工夫することにより、カニクイザルと同様に幅広い検査への使用が可能であった。実験動物としての特性では、従来の動物種では予測が困難であった抗精神病薬の副作用を予測するモデルになることが明らかとなった。このように小型で取扱いやすく、ヒトに近い霊長類としてのデータが容易に得られるため、安全性評価に加え薬効評価等の幅広い分野での展開が期待できる。
(page45~50by福岡俊文,祝迫隆行,松本淳,中野実)

住友化学 2000-Ⅰ(2000年5月25日発行)

次世代のレジストとしては、ArFエキシマレーザー(波長193nm)を光源とする露光機に対応するArFレジストが用いられる。また、電子線(EB)を光源とする電子線描画装置に対応するEBレジストも微細な加工が可能でありマスク製造等に用いられる。いずれも感度的な要求から、化学増幅型の反応機構を利用したものであり、従来のi線レジストとは大幅に設計概念が異なる。
当社のArF及びEBレジストの設計概念と性能について紹介する。
(page 4~9 by 上谷 保則)

GaAsを始めとする化合物半導体は情報通信分野で多種多様なデバイスに用いられている。GaAsはSiに比べ、電子移動度や絶縁特性といった物理特性に優れ、特に無線通信システムにおいてはこのことがデバイスの雑音特性や電力効率の改善を可能としている。
ここでは、それらの利点をより一層引き出すための化合物半導体ヘテロ接合デバイスに用いられるエピタキシャル基板について、エピタキシャル層を構成する多層薄膜構造の設計技術を紹介する。
(page 10~19 by 秦 雅彦,福原 昇,笹島 裕一,善甫 康成)

次世代デバイスの製造に対応した機能性薬品を紹介する。今後のデバイスには多くの金属材料が採用されてくるため、従来のRCA洗浄(過酸化水素水+酸又はアルカリ)では腐食の問題から対応が難しいとされている。
そこで腐食抑制効果を持った新しい洗浄液、及びレジスト剥離剤を開発したので報告する。
(page 20~28 by 高島 正之,一木 直樹)

近年、ノートPCだけでなく液晶モニター、液晶テレビ、携帯機器などの新しい用途への展開によって、液晶表示装置の市場は拡大を続けている。我々は、偏光フィルムの技術を核として、様々な液晶表示装置への応用に向け、新しい光学部材を開発してきた。本稿では、偏光フィルムの新しい機能についての動向や最近の開発状況について述べる。
(page 29~36 by 染谷 保行,蔵田 信行,東 浩二,本多 卓,清水 朗子,林 成年,波岡 誠,松元 浩二,水口 圭一,栢根 豊)

液晶表示素子(LCD)の市場規模は、情報技術社会を迎えますます成長するものと期待されている。本稿では、このLCDの性能を支配する主要部品であるカラーフィルターについて、ノートPC・モニター・TVなどの用途で要求される高画質化、大画面化に対応する技術として、高透過率・高色純度を目指す色特性の改良、広視野角化対応のIPS方式に適用可能な樹脂ブラックマトリックス、さらに高性能セルギャップ制御方式である柱状スペーサーの各開発状況を紹介する。
(page 37~44 by 藤田 勉,藤井 幸男,穂積 滋郎,佐藤 行一)

スミコランダム®は均一な形状を有し、分散性、充填性に優れ、また粒径を0.3μmから20μmまで制御できる。これら特長を生かすことにより、焼結体用途では、緻密なポアフリー焼結体が得られ、高耐食性半導体製造治具用に適している。また、フィラー用途では粒度分布を設計し充填率を増大、熱伝導度を向上でき、放熱性が必要な半導体関連部材のフィラーへの検討が進んでいる。本稿では、スミコランダム®の半導体関係の用途における優れた特性についてまとめた。
(page 45~49 by 内田 義男,黒飛 義樹,渡辺 尚,田中 紳一郎)

耐熱導電ポリマーアロイであるアステムRは、PPE系アロイの高耐熱性を活かし、導電性カーボンブラックを練り込むことにより導電性を付与した高機能材として耐熱ICトレイに使用されている。アステムR高衝撃グレードは、スチレングラフトEPDMを使用することで従来の耐熱ICトレイ材料にはない高い耐衝撃性を発現し、耐熱ICトレイの耐久性を高めることができた。
(page 50~54 by 藤井 丈志,石川 学)

写真や印刷などのハードコピーに対し、ディスプレイ上で表示される一時的な画像をソフトコピーと呼ぶ。コンピュータネットワークの普及により、マルチメディア上での画像の取り扱いが一般化してきた。これにともない、色再現に関して新たな問題が提起され、盛んに研究されている。ここでは、当社の事業と関係の深い固体撮像素子とソフトコピーとに関連する色再現の問題を測色的側面から説明する。
(page 55~62 by 中塚 木代春)

デバイス間の色伝達の手段としてColorSyncとICC Profileを用いたカラーマネージメントが注目されている。この応用として、印刷物の色をシミュレートするDDCPがあるが、十分な色再現が得られていない。本稿ではカラーマネージメントについての問題点を取り上げ、ICC Profileの精度に影響するデバイスの安定性を調査し、印刷適正を考慮したICC Profile作成用カラーチャートの配色設計方法などについて研究した。
(page 63~72 by 組地 正夫,鈴木 豊美子)

住友精化(株)の半導体向け排ガス処理装置は、処理対象ガスに応じた吸収液を採用し且つ気液接触性能が非常に優れたロータリーアトマイザーを搭載していることにより、半導体製造工程から排出される毒性の極めて高いガスを許容濃度以下にまで処理し、更に排ガスに同伴する粉体の影響を受けにくくした装置である。最近、排ガス処理装置までの接続配管で同伴粉体による閉塞等のトラブルが頻発しているが、これに対処する配管システムを構築したので合わせて報告する。
(page 73~82 by 溝川 憲一,中西 隆一,菱池 通隆)

情報社会におけるセキュリティの持つ重要性とセキュリティに対する脅威を解説する。過去の社内外の事例を挙げ、セキュリティに対する侵害が身近に起こっていることを紹介する。セキュリティ対策として、最初に行うべきことは企業のセキュリティポリシーの策定である。その定めるべき内容について高いレベルと低いレベルを例示しながら項目別に解説する。最後にセキュリティの国際標準である、セキュリティ評価認証制度ISO15408について紹介する。
(page 83~92 by 雪浦 和雄)

有機合成実験の自動化を実現するための自動化システムの設計コンセプト(汎用性/柔軟性と統合性)を説明した。このコンセプトに基づいて設計した2系列のシステム、すなわちパソコン制御システム(小型DCS機能付き)とロボット合成システムの開発と、それぞれの活用事例について説明した。今後の課題として、反応条件最適化アルゴリズムの構築や、コンビナトリアルケミストリーのシステム動向、マイクロリアクタの技術動向の調査も自動化関連技術として必要なことを紹介した。
(page 93~104 by 岡本 秀穂,岩田 篤和)

固液分離におけるフィルター上ケーキ層の透過率について理論と実験の両面から検討した。特に、ケーキ層を構成する粒子の粒径分布の広がりと粒子形状係数の効果について研究した。実験では、単分散球形粒子や種々の多分散非球形粒子を含む6種類の粉体を用いて水の透過試験を行った。粒径分布の広がりと粒子形状係数の影響を考慮した理論に基づいて各種パラメーターを用いてすべての実験データを整理した結果、ケーキ層空隙率が0.3から0.7の範囲において実験結果が良く相関できた。同時にこの結果から、よく知られているKozeny-Carmanの式が粒径分布の広い不整形粒子からなる粒子層の流体透過に適用できないことをも示された。ここで提案した相関によって、粒径分布の広い不整形粒子からなる粉体層の流体透過を定量的に予測することが可能になった。この相関は固液分離を行うろ過器の設計に有益である。
(page 105~109 by 遠藤禎行,金星直彦)

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