技術誌 住友化学

2001年度

住友化学 2001-Ⅱ(2001年11月30日発行)

住友化学ではアンモキシメーションと気相ベックマン転位を組み合わせた新しい技術を採用してカプロラクタムの増強を計画している。これは硫安を全く副生せずにカプロラクタムを製造する世界で最初の商業プラントである。本稿では新プロセスの紹介と、当社が開発した気相ベックマン転位に使われる高シリカMFIゼオライトを主成分とする触媒について、そのユニークな特徴について紹介する。
(page 4 - 12 by 市橋宏, 深尾正美, 杉田啓介, 鈴木達也)

LCP用途としてもっとも市場の大きいSMT対応コネクターを対象に、ソリ低減のため成形時の流動パターンを考慮した設計の考え方について述べる。また、フィラー組成も流動パターンに影響することから、最適化されたスミカスーパーLCPのコネクター用グレード群を紹介する。LCPのCAE解析とその有効性についても言及する。
(page 13 - 19 by 永野聡, 山内宏泰, 平川学)

新規なブロー成形用ポリプロピレン“AS821”を開発した。ブロー成形性に関して、“AS821”はダイスウェルの剪断速度依存性が非常に小さいため、パリソン厚さのコントロール性に優れる。さらに冷却速度が速いため、成形サイクル短縮による生産性の向上が可能である。また、物性面でも従来のポリプロピレンおよび高密度ポリエチレンの代表的なブローグレードと比較して透明性に優れ、かつ衝撃強度が飛躍的に向上したため容器の軽量化も可能である。
(page 20 - 26 by 城本征治, 永松龍弘, 鈴木治之, 荻原俊秀)

大豆油や廃食用油などの油脂とメタノールを反応させて脂肪酸のメチルエステルを製造する方法を検討した。メタノールが超臨界状態となる条件で反応を行うと、無触媒でも高反応速度でメチルエステルが得られることを見出した。本プロセスは従来のアルカリ触媒を用いたプロセスと異なり石鹸成分の副生がないクリーンでシンプルなプロセスであり、石鹸を分離する水洗工程の簡略化が可能である。
(page 27 - 31 by 後藤文郷, 鈴木智之, 佐々木俊夫, 舘野辰夫)

有機合成反応では、微小反応場になるほど反応収率が高く(本報告者の仮説)、拡散律速反応であれば反応時間が短くて済む。このため工業的な生産規模も達成できる。さらに標的化合物への最適合成ルートの設計システムと統合すれば、医薬品のような標的化合物の合成が、迅速かつ信頼性高く実現できる可能性がある。有機合成場のダウンサイジング化に伴う物理・化学現象を踏まえて、合成反応への適用例,従来のスケールアップからナンバリングアップによる生産設備の可能性などを、最近の技術動向から紹介する。
(page 32 - 45 by 岡本秀穂, 橋爪新太)

安全性薬理試験は新規医薬品のヒトに対する安全性を薬理学的観点から検討する非臨床試験である。昨年、被験物質のヒトに対する安全性の検討と副作用予測を目的とした安全性薬理試験ガイドラインが日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)において制定された。本稿では安全性薬理試験ガイドライン制定の経緯およびその内容について解説し、さらに安全性薬理試験において最も重要と考えられる生命維持機能の評価体制について循環器系を中心に紹介する。
(page 46 - 52 by 三野照正, 野田有宏, 辻本伸治,杉本眞一, 中野実)

プロセスシステム工学(PSE)は、プラントのライフサイクルにおける様々な段階での工学的意志決定の問題を合理的に解決するための技術を与える。その中で近年活発な研究および実用化が進み、これからも幅広い展開が見込まれている運転制御の分野に焦点をあて、そこで利用されているダイナミックシミュレーションやアドバンスト制御などの要素技術やそれらの社内活用事例を紹介する。併せて、今後の課題と展望について述べる。
(page 53 - 59 by 轡義則)

住友化学 2001-Ⅰ(2001年5月31日発行)

デラウス®(ジクロシメット、委託試験番号:S-2900)は、当社が開発した新しいタイプのいもち病防除剤である。いもち病はイネの病害の中でもっとも被害の大きい病害で、稲作の安定生産のためには、本病害を的確に防除することが極めて重要である。最近でも、1993年のいもち病の大発生が全国で大きな被害をもたらしたことは記憶に新しいところである。そのような状況下で当社はデラウス®の開発を鋭意進め、2000年4月に農薬登録を取得し販売を開始した。
ここでは、デラウス®のスクリーニング研究の経緯、病害防除作用、製造法、物性、製剤、安全性、動植物代謝、環境挙動などについて紹介する。
(page 4~13 by 小栗 幸男、真鍋 明夫、山田 好美、井上 雅夫、中野 実 、門岡 織江、安斉 公)

住友化学で発明されたフルミオキサジンは、クロロフィルの生合成を阻害する事で雑草を枯殺する除草剤である。フルミオキサジンは、人間の健康、環境に対し大きな安全係数をもち、ダイズ、ピーナッツのような作物圃場、果樹園、非農耕地の除草剤として南アメリカ、フランス、中国、日本で上市されているが、本年にアメリカ合衆国で登録取得でき、主要な農業国での登録が取得できた。
(page 14~25 by 永野 栄喜、佐藤 良、山田 昌宏、船木 雄司、古田 リツ子、藤澤 生、川村 聡)

潜在的に二酸化炭素を大量に固定化するポテンシャルの高い半砂漠地域のような厳しい環境ストレス下でも生育可能な植物の育成のための基盤技術開発として、光ストレス耐性植物の育成研究を実施している。モデル植物であるシロイヌナズナは中程度の光ストレスを与えて光適応させると、強光ストレス耐性が向上することから、光適応時に誘導される遺伝子群を解析した。その中で転写因子であるジンクフィンガータンパク質RHL41を見出し、本遺伝子を高発現させた組換え植物は強光耐性が向上することを示した。RHL41は光適応/ストレス防御に関わる転写調節因子として機能していると考えられる。
(page 26~32 by 飯田朝子、大江田憲治)

“粘着くん®”は、(株)アグロスが開発した化学殺虫成分を含まない、環境にやさしい殺虫・殺ダニ剤である。有効成分に食品であるデンプンを使用し、環境の各方面にきわめて高い安全性を有するとともに、粘着力や窒息死によって効果を発揮するため、害虫の抵抗性発達のおそれがない。天敵類に悪影響をほとんどおよぼさない粘着くん®の特性を生かして、イチゴ(施設)とカンキツ園でハダニ類の防除試験を実施したところ、粘着くん®の速効的な効果と天敵の持続的な効果がうまく補完され、長期間ハダニが低密度に抑制された。粘着くん®は、現在の環境保全型農業の流れの中にあって、有効な防除資材になりうると考えられた。
(page 33~37 by 本藤 勝、田中 信隆、佐藤 英嗣)

住友製薬ではアザピロン系化合物の合成技術を基盤とした探索研究を行ない、新規なセロトニン-ドパミン拮抗タイプの抗精神病薬ペロスピロン(ルーラン®)の開発に成功した(2000年12月、製造承認)。ペロスピロンは従来の抗精神病薬と異なり、脳内のセロトニン-2およびドパミン-2受容体に対して強力な拮抗作用を有し、これら複合作用を介して抗精神病効果を発現する。臨床試験においても、ペロスピロンが精神分裂病の陽性症状のみならず、既存の薬剤が効き難い陰性症状に対しても優れた効果を示し、かつ、その錐体外路系副作用が緩徐であることが確認された。これらの成績から、ペロスピロンは臨床での有効スペクトルの広い新しいタイプの抗精神病薬として位置づけられる。
(page 38~45 by 大野 行弘、安徳 富士雄、土屋 俊郎)

近年、医療の現場において画像診断の果たす役割はますます大きくなってきている。特に脳の疾患においては、非侵襲的な画像診断が本質的に重要な役割を果たしている。エックス線断層撮影法(CT)や磁気共鳴画像(MRI)が脳組織の形態を画像化する手法であるのに対し、核医学検査は放射性医薬品を体内に投与し、特定臓器に取り込まれた放射性同位元素が放出する放射線を体の外から特別なカメラで測定、コンピュータで脳血流や脳代謝等の機能画像を作成する手法である。したがって、核医学検査によって得られる情報はCTやMRIとは本質的に異なるものであるといえる。例えば、脳卒中や痴呆の初期にはMRIによる脳の構造の変化は認めないが、既に脳内の血流やエネルギー代謝は異常を来しており、核医学の手法でこれらの病態は的確に把握できる。また神経伝達物質及び受容体のイメージングは脳核医学検査の独壇場である。本稿では、核医学による脳機能の画像化の現状と当社の取り組みについて紹介する。
(page 46~54 by 松本 博樹、前川 顕)

当社が新たに開発したポリマービーズであるCSシリーズABAは、ポリプロピレンと良好な親和性を持つポリマー構造と狭い粒径分布を有している。このポリマービーズをOPPフィルムのABAとして用いると、均一な表面突起を与えることによる、優れたアンチブロッキング性、良好な透明性、良好な耐傷つき性、脱落が少ない、というABAにとって好ましい性能を示す。
(page 55~61 by 江原 健、谷村 博之、細田 覚、山崎 和広、橋本 剛、貞利 甫)

ARC®は、反応性化学物質の熱暴走危険性評価に有効な断熱熱量計である。本稿は、ARC®測定データを実装置に適用する際に必要なφ補正について、当社で採用している方法を紹介した。さらに、安全面でのプロセス上限温度であるADT24の概念と当社の評価手順を解説した。最後に、自己反応性物質や有機過酸化物を輸送する際の包装品の温度管理の指標となるSADT(自己加速分解温度)をARC®測定データから推定する方法を紹介した。
(page 62~70 by 菊池 武史)

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