2003年度
住友化学 2003-Ⅱ(2003年11月28日発行)
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ヒトゲノム解析は本年4月14日に終了が宣言されたところであるが、既にゲノムプロジェクトの影響は様々な分野で現れている。なかでも製薬業界では創薬研究のパラダイムシフトと呼ばれるほどの大きな変化が起きつつあり、住友製薬でもゲノム技術を活用した創薬研究の促進をはかっている。本稿ではゲノム情報の利用において中心的な技術となるトランスクリプトミクスとプロテオミクス技術ついて、これらの技術を用いた最新の成果を交えながら紹介する。
(page 4 ~ 11 by 小島深一,木村徹)
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ダイオキシン類の分析法は高分解能GC/MSを用いた化学分析法が、種々の試料中TEQ(毒性等量)値を求めるための標準分析法(公定法)となっている。しかしながら、この分析法は手間と時間がかかり、また高価であるため、多数試料のスクリーニングには適していない。この問題を克服するため、我々はレポーター遺伝子アッセイ法の開発を企図し、それに用いるための安定形質転換細胞を開発した。本細胞株を用い、母乳、焼却施設からの排出ガスおよび灰などの様々な試料を測定し、レポーター遺伝子アッセイの測定結果がGC/MSによる測定結果と非常に良い相関を示すことを見出した。
(page 12 ~ 18 by 松永治之,斎藤幸一,大江田憲治)
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バイオオーグメンテーションに適した微生物製剤の調製方法を開発した。石炭焼却灰(フライアッシュ)を用いて微生物(活性汚泥)を凝集、固定化し、目的とする微生物に特異的な基質、例えばアンモニアと酸素を含有する培地を与えて連続培養することにより、その微生物、例えば硝化細菌を優占化した。優占化した硝化細菌を活性汚泥系に所要量施用したところ、期待通りに活性汚泥系の硝化が賦活された。
(page 19 ~ 25 by 中村洋介,青井正廣)
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イオン性液体は室温で液状の四級塩であり、ここ10年で飛躍的に研究が進み、研究報告数が急速に増えている。化学構造的にはカチオンとアニオンから成る塩であるために、殆ど蒸気圧が無く、難燃性、不燃性、高極性の液体である。また極性が高く有機塩や無機塩および水をよく溶かす場合が多く、通常の精製手段である蒸留や再結晶は適用できない。このために精製が難しいのも特徴と言える。現在、広栄化学では、イオン性液体化合物のカタログを配布し、本化合物に興味を持つカスタマーとの共同開発を進めるべく活動している。当社はアミン、ピリジン、相間移動触媒の製造を手がけていることから、とりわけカチオン部分の構造の多様な展開に優位性を有している。本稿ではイオン性液体の歴史から当社の取り組みまでを簡単に紹介する。
(page 26 ~ 34 by 酒井俊人,臼井政利,山田好美)
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大量生産可能な方法により、可視光線応答型酸化チタン光触媒粉末(TPS)を合成した。TPSは波長約550nm程度まで光触媒反応に利用することができる。また蛍光灯照射下では、TPSは市販の酸化チタンに比べて数倍高い光触媒活性を示した。通常のコーティング液製造技術を改良し、可視光線応答型酸化チタン光触媒コーティング剤(TSS)を合成した。TSSはアナターゼ型の酸化チタン粒子が分散している為、塗布後乾燥するだけで光触媒活性を発現する。またTSSから得られる塗膜は、可視光照射下で抗菌性を示した。
(page 35 ~ 41 by 酒谷能彰,奥迫顕仙,吉田祐子,沖泰行,安東博幸,小池宏信)
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ポリマーアロイの歴史について概説し、この中から非相溶系ポリマーアロイのアロイ化手法として、リアクティブプロセッシングを詳細に説明した。反応性相容化剤を用いて、溶融混練中にブロックコポリマーを作り出しながら、アロイ化することで、微細な分散構造をとることができる。PP/PA系をはじめ、PPE/PA系について詳細に説明した。さらに、PP/PPE系への応用についても示した。さらに、ポリマーアロイのモルフォロジーを評価する方法についてまとめた。界面の構造解析手法については、当社の事例を中心に具体例を示した。
(page 42 ~ 54 by 眞田隆,森冨悟,内海晋也)
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本年5月にSAFER Systems社の「リアルタイムシステム」が日本で最初に住友化学工業(株)愛媛工場に設置された。本システムは、「化学プロセス監視用の緊急対処システム」であり、気象情報、ガス検知器の測定値をリアルタイムでパソコン(PC)に取り込み、地図画面上に大気拡散モデルによるシミュレーション結果を表示するものである。通常では、眼で見ることのできない化学物質のプルームの状況、位置を視覚的に示すことができるので、事故発生時、風下領域でのプルーム到達時間、濃度等を緊急連絡して被害を軽減するのに役立てることができる
(page 55 ~ 61 by 半井豊明)
住友化学 2003-Ⅰ(2003年5月30日発行)
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化学品のリスクアセスメントは、当社において1982年に設立された化学品安全性評価システム(TASCS)の中で、レスポンシブルケアの精神に則り、当社製品の安全性の評価を通じて実施してきている。爾来、約820化合物について、科学的評価を行い、延べ4400件の報告書を作成してきた。特に本稿では、作業者の環境中濃度と感作性の関係について、モルモットを用いた感作性試験での用量相関性を利用してシミュレーションモデルを組み、実測値との関係から安全な環境中濃度を推計し、実作業との兼ね合いで、より安全な作業形態を策出し、作業環境のリスクを軽減した例や、毒性の初期評価に重要な役割を果たす毒性予測手法も簡単に紹介する。
(page 4 - 12 by 中山由美子、山本圭介、中村洋介、岸田文雄)
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土壌・地下水汚染による健康影響の懸念や、健康被害の防止対策の確立を求める社会的要請が強まってきた。それらの状況を踏まえて、土壌汚染の状況の把握、土壌汚染による人の健康被害の防止に関する措置等を定めた「土壌汚染対策法」が施行された。「土壌汚染対策法」の制定・施行は土壌汚染の実態調査や対策実施などについて、関連ビジネスや企業に与える影響をさらに加速すると思われる。本稿では土壌汚染の現状、土壌汚染の調査技術とその対策方法などについて述べ、併せてこれらに関する「当社の取り組み」について紹介する。
(page 13 - 23 by 大悟法弘充、西川浩一、三原一優、井上芳夫、藤本英治)
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バリアフリーの社会のニーズは包装材料の分野においても、誰にも簡単に開封できる「イージーピールフィルム」の高度成長市場をもたらした。これに対し、当社は高度な材料設計技術と押出加工技術を応用して、機能性フィルム「アシスト」を開発し、住化プラスチック(株)で製造・販売を行っている。イージーピール性の発現機構は「材料の破壊制御技術」であるが、本稿では顧客ニーズに迅速に対応できる材料設計法や、製品性能などについて紹介する。
(page 24 - 30 by 黒田竜磨、高畑弘明、高木康行、三井慎一、古田明寛)
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オリスター®Aは住友化学が開発した、ピーマン、なす等の野菜類に寄生するアザミウマ類防除用の天敵昆虫製剤であり、有効成分として日本国内に分布する捕食性カメムシのタイリクヒメハナカメムシ(Oriusstrigicollis)を含有する。オリスター®Aに使用されているタイリクヒメハナカメムシは短日条件下でも非休眠であるように選抜された系統である。その結果本天敵製剤の最大の使用場面である、日本西南暖地の冬春作の施設園芸でも十分な防除効力を発揮することができる。本稿では、オリスター®Aの大量飼育、実用効果の詳細、さらには本剤を軸としたピーマンの施設園芸の総合防除モデルについても述べる。
(page 31 - 36 by 浮城昇、庄野美徳)
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レオロジーやリアクティブプロセッシングの技術をベースとして、フィルム成形、ブロー成形が容易で、かつ、液晶ポリマーの機能は保持した、新しい液晶ポリマー材料の開発を行っている。該新規LCP材料から得られたフィルムは、高弾性率、高いガスバリア性、低吸水率、耐溶剤性などを有し、耐熱フィルム、ガスバリア包材としての用途が期待できる。
(page 37 - 42 by 山口登造、熊田浩明、山下恭弘、松見志乃)
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メトキシアミンがニトロベンゼン類を直接的にアミノ化し、ニトロアニリン類を与えることを見出した。銅触媒の添加により収率が大幅に向上する。メトキシアミンはニトロベンゼン類だけでなく、ニトロピリジン類、ニトロオレフィン、α,β―不飽和カルボニル化合物およびナフトキノン類も効率よくアミノ化し、それぞれアミノニトロピリジン類、β―ニトロエナミン、β―アシルエナミンおよびアミノナフトキノン類を与える。本稿ではこのメトキシアミンを用いた新しいアミノ化反応について紹介する。
(page 43 - 53 by 世古信三、三宅邦仁)
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製品の開発期間短縮の為の実践的なCE手法の開発を行った。1)源流化、2)並流化、3)技術力をキーワードとし、源流化即ち開発初期段階での課題の形成、並流的な業務遂行が可能となる仕組み作り、基盤となる技術力、特にIT技術を融合させる事に力点を置いた。各種の標準化シートを開発・活用して工業化プロジェクトの課題を体系的に形成する事により、源流化とともに機能的に課題が管理できる仕組みを構築した。また、課題の摘出や解決分布及び完成度から成るOZチャートを開発して、プロジェクト運営を見える化することにより、仕事の進め方や技術力の定量的評価が可能となった。プロジェクトを成功させるための源流化度、完成度の目安が明らかとなり、源流化度からプロジェクトの成否を予測する事が可能になった。
(page 54 - 60 by 尾崎達也、伊藤孝徳)
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バックナンバー(抄録のみ)
※1999年度以前は論文の抄録のみを掲載しています。