2005年度
住友化学 2005-Ⅱ(2005年11月30日発行)
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メトフルトリン(エミネンス®、SumiOne®)は当社が独自に発明、開発した新規ピレスロイド系殺虫剤であり、蚊に対して極めて優れたノックダウン効果と致死効果を示すともに、既存剤に較べ高い常温蒸散活性を有している。また人畜に対する安全性も高い。本剤は線香、液体蚊取りなどの既存蚊取り製剤のみならず、その蒸散活性を生かし、加熱を必要としないファン式製剤や紙含浸製剤、樹脂製剤等へ幅広く適用可能である。このような特性をもつメトフルトリンは、2005年1月に国内で薬事法製造承認され、蚊を中心とした害虫防除に新時代を画する剤として、日本のみならず全世界において広く開発が進められている。
(page 4~16 by 松尾 憲忠,氏原 一哉,庄野 美徳,岩崎 智則,菅野 雅代,吉山 寅仙,宇和川 賢)
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アムルビシンは旧 住友製薬(株)(現 大日本住友製薬(株))により全合成された新しいアントラサイクリン系の抗癌剤であり、2002年4月に非小細胞肺癌と小細胞肺癌を適応症として製造承認を得た。ドキソルビシンなど現在市販されているアントラサイクリン系薬剤は全て発酵品あるいは発酵品からの半合成品であるのに対し、アムルビシンは化学的に全合成された化合物である。9位に水酸基の代わりにアミノ基を有し、アミノ糖の代わりにより簡単な糖部分を有するという、発酵品あるいは発酵品からの半合成品にはない化学構造上の特徴を有している。
(page 17~26 by 野口 俊弘,花田 充治,山岡 隆,森貞 信也,一井 真二)
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我々は、光学活性3級アルコールの構築を目指した医薬中間体の新規合成法の開発に取り組んでいる。今回、L―プロリンを触媒とするシクロヘキサノンとベンゾイル蟻酸エチルとの直接的不斉アルドール反応が、良好な不斉収率で進行し、簡便に四置換不斉中心が構築できることを見出した。また、得られたアルドール付加物は、工業的な製法で(S)-オキシブチニンの鍵中間体である(S)-CHPGAへ導けることを見出したので紹介する。
(page 27~32 by 池本 哲哉,徳田 修,高 衛国)
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独自の均一系触媒による精密な立体構造、モノマー配列のコントロールにより、ポリプロピレンとの相溶性が極めて高い、新規なエラストマー タフセレン®が開発された。本エラストマーは、ポリプロピレンの優れた耐熱性を維持したままでの超柔軟化をはじめ、耐傷つき回復性の改質、透明性の改質、粘着特性の付与など、従来の改質剤では不可能であった様々な性能を付与することができる。また、本質的にポリプロピレンに極めて近い構造を有していることから、リサイクル性にも優れ環境に優しい新素材として期待されている。本稿では、タフセレン®の基本的な特徴並びに応用展開事例について紹介する。
(page 33~40 by 常法寺 博文,穂積 英威,西山 忠明,藤田 晴教,今井 昭夫)
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コントローラの性能を評価する技術が開発され、大型の石油化学プラントなどに適用され始めている。最小分散制御をベンチマークとする制御性能評価法はプラント全体のPIDコントローラの性能を一度に、かつ、オンラインで評価することができる。さらに、制御性能が悪いコントローラについて、その原因を診断する技術の開発が進められており、その1つとしてバルブ不具合を検出する手法を開発した。本稿では、制御性能評価法とバルブ不具合検出法について概説し、いくつかの適用事例を紹介する。
(page 41~49 by 久下本 秀和)
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化学品の安全性を評価するためには、ガイドラインで定められる試験だけではなく、簡易安全性評価法が有用である場合が多い。簡易安全性評価法はそれぞれ特性があり、それらを正確に把握した上での使い方を考える必要がある。また、簡易安全性評価法はまだ発展途上のものが多く、更なる改良と使い方の工夫が望まれる。本稿では、遺伝毒性、皮膚刺激性、皮膚感作性の簡易安全性評価法についての規制動向や現状、当社での検討状況を紹介する。
(page 50~58 by 太田 美佳,中村 洋介,北本 幸子,森本 隆史)
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PSA法ガス分離技術は、化学産業分野において吸収法や蒸留法に代わる省エネルギーなガス分離技術の一つとして重要な役割を担っている。特にこの技術は「省エネルギー」の視点から地球温暖化を引き起こしている炭酸ガスの排出量を減らすという意味で有効な技術であり、住友精化(株)はこの技術を「省エネルギー」化を進める必要のある利用分野を更に拡大させるために各種改良したので、ここに紹介する。本報告ではエネルギー消費量を節減できる「窒素/酸素併産システム」について述べると共に、安価な水素が製造できる「メタノール水蒸気改質法水素発生装置」についても報告する。
(page 59~66 by 春名 一生,三宅 正訓,笹野 広昭)
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本稿ではPd/Cを触媒とする鈴木―宮浦反応、並びにIr触媒による芳香族C-H活性化反応を利用した芳香族ホウ素化合物の合成法を紹介する。我々はハロゲン化ピリジン、ハロゲン化キノリンを基質として、Pd/Cを触媒とする鈴木―宮浦反応の検討を行い、2価パラジウムを主成分とするPd/Cとホスフィン添加剤が収率の向上に必須であることを明らかとした。また、Ir触媒を用いた芳香族ホウ素化反応では、2,6-ジイソプロピル-N-(2-ピリジルメチレン)アニリンが配位子として有効であり、特にイミン部分の立体的なかさ高さが収率の向上に重要であることを見出した。
(page 67~75 by 西田 まゆみ,田形 剛)
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OECD(経済協力開発機構)プライバシーガイドラインの8 原則を踏まえた個人情報保護法が2005年4月に完全施行された。その背景及び、法の要求事項について概観する。次に、この法に対して個人情報取扱事業者としての当社の方針を説明し、経済産業省のガイドラインを参考に当社が実施した「安全管理措置」への対応の各プロセス、及び「コンプライアンス・プログラム」について解説する。
(page 76~87 by 西川 浩,後藤 俊則,里村 敏子)
住友化学 2005-Ⅰ(2005年5月31日発行)
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液晶ポリマーのフィルムは、優れた電気特性、寸法安定性や耐熱性などが注目され、プリント基板の用途で盛んに開発がなされている。従来、液晶ポリマーは溶液キャスト法でのフィルム化が困難とされてきた。当社がこの液晶ポリマーのキャストフィルムの開発に成功したことで、既に液晶ポリマーの適用が始まっているフレキシブルプリント配線板や多層板などへの展開に加え、液晶ポリマーフィルムのアプリケーションを大幅に拡大できると思われる。
(page 4~13 by 岡本 敏,細田 朋也,片桐 史朗,大友 新治,伊藤 豊誠)
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画像処理技術は現在さまざまな分野で利用されている。当社では、単に視覚作業を画像処理に置き換えるだけでなく、視覚情報を活用した生産支援システムの構築を行っている。そのためには、適切な画像を得るための観測系の構築から画像処理アルゴリズム開発、生産工程への視覚情報の供給、工程改善までを含んだ総合的なシステム開発が必要である。本稿では、生産支援システムに必要な技術及び実際の開発事例として、検査・計測・監視の3分野における画像処理システムを紹介する。
(page 14~23 by 篠塚 淳彦,廣瀬 修,鈴木 孝志,清水 誠也,鷲崎 一郎)
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これまで日本の施設園芸は、消費者の嗜好や利便性を第一に発展し、食の多様性に応えてきた。一方、大量消費を支えてきた農業技術には、食の安全や環境保護の点で多くの課題がある。そのため最近では、省資源・低エネルギー消費を前提に食の安全確保を図る新しい技術開発が求められている。本稿では、高性能施設園芸用被覆フィルムの技術思想について概説するとともに、消費者と農業の将来を展望した当社の取り組みについて述べる。
(page 24~32 by 阪谷 泰一,南部 仁成,児島 伴樹)
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ピリダリル(一般名)は当社が独自に発明、開発した新規殺虫剤であり、棉、野菜、果樹の鱗翅目及び総翅目害虫に高い防除効果を示す。また従来とは異なる新規骨格と作用メカニズムを持つことより、既存の殺虫剤に対して感受性が低下した害虫にも効果がある。さらに害虫に対する薬効の選択性が高いため、天敵昆虫や有用生物への影響も少なく、IPMに適合する。当社は、まず2004年に韓国、日本における農薬登録を取得し、商品名「プレオ®フロアブル」として販売を開始し、順次、多くの国で開発・登録・上市を進めている。
(page 33~44 by 坂本 典保,植田 展仁,梅田 公利,松尾 三四郎,葉賀 徹,藤澤 卓生,冨ヶ原 祥隆)
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中枢神経に傷害を受けた場合、機能回復が難しいことは古くからよく知られている。我々は大阪城公園の土壌から単離したカビの生産物から非常に強い神経伸長抑制活性を持つことが知られているセマフォリン蛋白質に対する低分子阻害剤(SM-216289)を見いだした。SM-216289は 1µM未満の低濃度でセマフォリンの活性を完全に阻害する。神経傷害モデル動物を使った実験からこのSM-216289を投与することによって中枢神経の再生が促進されることがわかってきた。セマフォリン阻害剤は中枢神経の再生促進剤という全く新しい薬になると期待される。
(page 45~51 by 熊谷 和夫,菊地 薫,岸野 晶祥,細谷 宜生,伊藤 彰,佐治 幾太郎,木村 徹)
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コンピュータ上で薬効分子を探索する仮想スクリーニングにより莫大な数の化合物を迅速にスクリーニングすることができる。仮想スクリーニング技術は、標的蛋白質とリガンド間の相補性を解析するSBDD手法と、リガンド間の相同性を解析するLBDD手法に大別される。我々は、現行の技術レベルを改善し、より精度の高い仮想スクリーニングを可能にするため、両手法を統合的に利用するマルチプルドッキング解析法を考案した。本稿において、この解析法を実現する為に開発した仮想スクリーニング統合システム“薬師(Xsi)”および実際の創薬研究を想定した検証事例を併せて紹介する。
(page 52~62 by 山崎 一人,金岡 昌治)
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アウトガス分析は、化学汚染の発生源調査の方法として工業的及び環境的の双方の分野において重要性が増している。アウトガス試験法には試料を加熱してアウトガスを加速するダイナミックヘッドスペース法(DHS)が用いられる。材料からのアウトガスの発生速度や減衰速度は、実験温度に依存する。本研究ではアウトガスの発生速度や減衰速度の関係について検討を行い、実験結果からアウトガス挙動のモデル式を提案した。
(page 63~71 by 野中 辰夫,大川 典子,大橋 一俊,竹田 菊男)
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住友化学(株)大阪地区(春日出)の図書・情報室は2003年4月にこの地区にある4研究所と大阪工場を対象に情報サービスを開始した。この新しい図書・情報室は、従来からある複数の研究所を統合し、かつ(株)住化技術情報センターへの業務委託を行うことで大きく生まれ変わった。我々はこの情報機能が、住友化学研究所の21世紀にふさわしい情報発信の要となり、図書室が研究者の新しいアイディアを生む思索の場所になるというコンセプトを掲げて研究者ニーズの発掘と対応に努めている。本稿では、図書・情報室の体制と情報機能のアクティビティを紹介する。
(page 72~81 by 岡 紀子,本間 文子,安永 郁男,橋爪 新太,法宗 布美子)
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※1999年度以前は論文の抄録のみを掲載しています。