摺動特性の評価試験方法は種々の方法があり、適切な方法は用途・状況により異なります。樹脂の基本的な摺動特性を評価する装置として、鈴木式摩耗試験機、Pin-on-Disk型摩耗試験機、スラスト型摩耗試験機(アムスラー型など)などが挙げられます。
限界PV値(荷重圧力×速度)とは、材料の摺動表面が摩擦発熱によって変形もしくは溶融する限界を表します。従って、限界PV値以上の条件では摩擦・摩耗共に著しく大きくなり、使用できなくなります。限界PV値は、耐熱性の高い樹脂ほど高くなります。実用的には限界PV値の約50~60%以下で使用することが必要です。
摩擦特性を示す指標としては、静摩擦係数(μS)と動摩擦係数(μD)があります。ともにフッ素樹脂系の摺動材が最も小さな摩擦係数を示すといわれています。
μSは起動時の摩擦抵抗を表します。静止-運動が繰り返される用途に対しては、μSは小さく、安定していることが重要です。また、成形直後のμSと初期摩耗後のμSでは異なります。
強化繊維を含まない非強化系摺動グレードとしては、スミプロイE3010およびスミプロイFS2200があります。これらは相手材がSUSやアルミのような軟質金属でも、ドライ状態で相手材を非常に傷つけにくいという特長を有しています。
図3-7-1は、E3010およびFS2200の限界PV値の速度依存性を他のエンプラ摺動グレードと比較して示したものです。比較摺動材に比して、いずれもかなり高い限界PV値を有していることを示しています。
図3-7-1 非強化系摺動グレードの限界PV値の速度依存性
E3010は射出成形用摺動材の中ではドライ状態で最も小さな静止摩擦係数を示す材料の一つです。E3010は摩耗後も初期の静止摩擦係数が 維持され、長時間にわたって安定しています。
表3-7-1にスミプロイ摺動グレードの摩擦摩耗特性を、他の汎用エンプラの摺動グレードと比較して示します。低~高PV値にわたって安定した耐摩耗性を有していることが分かります。図3-7-2にP=0.6MPa、V=40m/minとしたときのE3010の摩耗量と時間との関係を示します。
充填材入りフッ素樹脂に比較して初期摩耗が小さいという特長があります。また、ポリイミド入りフッ素樹脂と比較しても遜色ありません。
表3-7-1 非強化系摺動グレードの摩擦摩耗特性(スラスト型試験機)
測定条件 | サンプル | 動摩擦係数μD | 累積摩擦量 △W(μ) |
摩耗係数K (mm/km・MPa) |
相手材摩耗量 (mg) |
||
---|---|---|---|---|---|---|---|
圧力P (MPa) |
速度V (m/min) |
相手材 | |||||
1 | 10 | SUS304 | E3010 | 0.16 | 3.5 | 1.2×10-6 | 移着 |
FS2200 | 0.12~0.30 | 11 | 3.8×10-6 | 0.27 | |||
PTFE 充填PC | 0.12~0.31 | 95 | 33.3×10-6 | 0.13 | |||
PTFE 充填POM | 0.13 | 8.7 | 3.0×10-6 | 0.10 | |||
0.6 | 40 | SUS304 | E3010 | 0.18 | 11 | 1.6×10-6 | 0.01 |
FS2200 | 0.14~0.21 | 133 | 19.2×10-6 | 0.16 | |||
CF/PTFE 充填PPS | 0.40 | 132 | 19.2×10-6 | 13.6 | |||
PTFE 充填PC | 限界PV値以上(数分以内で溶融) | ||||||
PTFE 充填POM | |||||||
0.1 | 100 | SKH-2 | E3010 | 0.24 | 5.7 | 2.0×10-6 | 0.16 |
FS2200 | 0.29 | 85 | 29.5×10-6 | 0.14 | |||
CF/PTFE 充填PPS | 0.81 | 90 | 31.3×10-6 | 10.5 | |||
0.2 | 100 | SKH-2 | E3010 | 0.22 | 5.4 | 0.9×10-6 | 0.24 |
CF/PTFE 充填PPS | 0.53 | 168 | 29.2×10-6 | 4.30 |
図3-7-2 非強化系摺動グレードの摩擦摩耗特性
CS5220、CS5530、CK3420は炭素繊維、無機フィラーなどの強化グレードです。寸法安定や機械強度・剛性に優れており、熱膨張係数も小さく、かつPV値の大きい苛酷な条件でも使用できるという特長を有しています。摩擦係数がやや大きく、また若干の変動がありますが、相手材金属に硬度の高い材質のものを用いること、材質表面に硬化処理を施すこと、あるいは潤滑油と併用することによって各種の用途に特長を活かした使い方が可能となります。ただし、これらの系ではSUSやアルミなどの軟質金属を損傷する場合がありますので注意が必要です。
表3-7-2に繊維強化系グレードであるスミプロイCK3420の限界PV値を示します。
表3-7-2 繊維強化系摺動グレードの限界PV値
単位:MPa・m/min
CK3420 | |
---|---|
V=40m/min | 160 |
V=100m/min | 100 |
相手材:SKH-2、室温-DRY
速度をV=40m/min、100m/minの場合の動摩擦係数μDのPV値依存性を下記に示します。各グレードとも高PV値(高荷重)では0.1~0.2の小さな値を示しますが、低PV値(低荷重)では摩擦係数は大きくなります。したがって、高荷重・高速用の摺動材として適しています。
なお、これら繊維強化系グレードの耐摩耗性は、非強化系摺動グレードと比較して、あまりよくありません。表3-7-3に摩擦摩耗特性の一例をまとめて示します。
表3-7-3 繊維強化系摺動グレードの摩擦摩耗特性
摺動条件 | 項目 | CK3420 |
---|---|---|
P=0.6MPa V=40m/min 室温-DRY |
摩擦係数 摩耗係数(mm/km/MPa) 相手材重量変化(mg)* |
0.81 45×10-6 +1.9 |
P=0.2MPa V=100m/min 室温-DRY |
摩擦係数 摩耗係数(mm/km/MPa) 相手材重量変化(mg)* |
1.00 36×10-6 +0.2 |
相手材:SKH-2、摺動時間:48hr
*:+は移着を表す。
図3-7-3 動摩擦係数とPVの関係