スミカスーパーLCPの各グレードの荷重たわみ温度は下記の通りです。
荷重たわみ温度は短期的な耐熱特性を一般的に表す指標として使用できます。異なる測定応力(0.45MPaと1.82MPa)で実施した試験結果の混同にご注意ください。
表3-1-1 スミカスーパーLCPの荷重たわみ温度
測定荷重 | 0.45MPa | 1.82MPa |
---|---|---|
E5000シリーズ | 350~390℃ | 330~360℃ |
E4000シリーズ | 330~340℃ | 300~320℃ |
E6000シリーズ SV6000シリーズ SR1000シリーズ |
300~320℃ | 270~290℃ |
E6000HFシリーズ SV6000HFシリーズ |
280~320℃ | 250~280℃ |
SZ6000HFシリーズ SR2000シリーズ |
270~300℃ | 240~270℃ |
スミカスーパーLCPは荷重たわみ温度と常用使用可能温度のバランスに優れます。
図3-1-1 常用使用可能温度と荷重たわみ温度(荷重1.82MPa)
TGA(熱重量分析)結果から、窒素中での分解開始温度は約450℃と高く、また500℃における重量減少は1%以下と非常に小さいことから、スミカスーパーLCPは高い熱安定性を有することが分かります。
図3-1-2 スミカスーパーLCPと他のエンプラのTGA曲線
表3-1-2 スミカスーパーLCPの熱分解温度
樹脂 | 分解温度(℃) | |
---|---|---|
1%減量温度 | 主分解温度 | |
E5008 E5008L |
520 | 559 |
E4008 | 520 | 555 |
E6008 E6006L |
500 | 550 |
E6007LHF E6807LHF SV6808THF SZ6505HF |
500 | 550 |
PBT-GF30 | 370 | 421 |
PPS-GF40 | 460 | 556 |
測定機器: | 島津製作所製TG50型 |
昇温速度: | 10℃/min |
雰囲気: | 窒素中 |
スミカスーパーLCPと結晶性ポリマー(PEEK)、非晶性ポリマー(PES)と比較した弾性率の温度依存性の動的粘弾性のデータを以下に示します。PEEKは140℃で顕著な弾性率の低下を示すのに対し、スミカスーパーLCPは200℃以上でも高い機械的特性を維持し、ガラス転移挙動を示しません。実際、示差走査熱量計(DSC)による熱分析でも、従来の結晶性ポリマーや非晶性ポリマーに見られるような熱転移(Tg)は示されていません。また、スミカスーパーLCPは、明確な融点が見られません。スミカスーパーLCPは、液晶化温度(Tlc)で見かけ上溶けたように見えます。これにより、成形温度以下であれば金型温度を自由に設定できるメリットがあります。
図3-1-3 スミカスーパーLCPのDMA曲線
80℃の熱水中では、2000時間浸漬後も実用的な強度レベルを有しています。120℃以上の水蒸気中では加水分解が進行し、強度低下が大きいので使用することはできません。
図3-1-4 スミカスーパーLCPの耐熱水性(80℃)
スミカスーパーLCPは、耐熱エンプラの中でも最高のハンダ耐熱性を有しています。
表3-1-3 スミカスーパーLCPのハンダ耐熱性
試料寸法: | JIS K7113 1(1/2)号ダンベル×1.2mm |
ハンダ: | H60A(スズ60%、鉛40%) |
*図中の数字は、変形を生ずる限界秒数(>60は60秒浸漬しても変形を生じないことを意味する)
尚、成形条件によっては上記の変形温度以下で発泡が起こることがあります。
スミカスーパーLCPは優れた長期耐熱性を有します。スミカスーパーLCPの相対温度指数(RTI)は以下のとおりです。RTIは電気的特性(Elec)、機械的特性(Mech)の衝撃強度(Imp)と引張強度(Str)において、10万時間のエージングの後に、その初期値が半分の値になる温度を示します。一般に薄い試験片の方が劣化速度は速いことから、ULでは試験片の肉厚に応じたRTI評価を行っています。
表3-1-4 スミカスーパーLCPの相対温度指数(UL746B)
グレード | 厚み (mm) |
RTI | ||
---|---|---|---|---|
電気的 | 衝撃 | 引張 | ||
E5008 | 0.75 | 240 | 200 | 220 |
1.5 | 240 | 220 | 240 | |
3.0 | 240 | 220 | 240 | |
E5008L | 0.75 | 240 | 200 | 220 |
1.5 | 240 | 220 | 240 | |
3.0 | 240 | 220 | 240 | |
E4008 | 0.15 | 220 | 200 | 220 |
0.30 | 240 | 200 | 240 | |
0.75 | 240 | 220 | 240 | |
1.5 | 240 | 220 | 240 | |
3.0 | 240 | 220 | 240 | |
E6008 | 0.15 | 220 | 200 | 220 |
0.27 | 240 | 200 | 240 | |
0.54 | 240 | 220 | 240 | |
0.75 | 240 | 220 | 240 | |
1.5 | 240 | 220 | 240 | |
3.0 | 240 | 220 | 240 | |
E6007LHF-MR | 0.50 | 220 | 210 | 210 |
0.75 | 220 | 210 | 210 | |
1.5 | 220 | 220 | 220 | |
3.0 | 220 | 220 | 220 |
樹脂が持つ熱安定性によって、その樹脂の長期間使用できる温度範囲が制限されます。UL準拠のRTI評価において、エージング試験は観察の対象となる特性値が初期値の半分に低下するまで続けられます。何段階かの異なる温度でエージング試験を行い、そのデータを基にしてアレニウスプロットを作成します。アレニウスプロットは、特性値が初期値の半分に低下するまでに要するヒートエージング時間(半減期とも呼ばれます)を、エージング温度(K)の逆数に対してプロットして得られるグラフです。
図3-1-5 スミカスーパーE5008の引張強度半減期の温度依存性
図3-1-6 スミカスーパーE6008の引張強度半減期の温度依存性
スミカスーパーLCPの260℃空気中での強度保持性能は以下のとおりです。260℃の空気中でも、引張強度の低下はほとんどありません。
図3-1-7 耐熱老化性(260℃空気中)