スミカスーパーLCPは、通常のインラインタイプの射出成形機やプランジャー(プリプラ)タイプの射出成形機で成形することが可能です。ただし、E5000シリーズのみ成形温度が最高420℃になるため、高温仕様(450℃仕様)の成形機が必要です。
一般に、LCPは機械物性や溶融粘度等の諸物性の温度依存性が大きく、温度管理を誤ると十分な特性が得られない場合があります。射出成形機は汎用樹脂の成形温度(~300℃)では、シリンダ内の樹脂温度と設定温度が比較的近くなるように設計されていますが、スミカスーパーLCPの成形温度領域(320~400℃)では、設定温度と樹脂温度にズレが生じるケースがあります。
スミカスーパーLCPの性能を引き出すには、シリンダ内の樹脂温度を把握し、それぞれのグレードの最適な温度にコントロールする必要があります。
上述の樹脂温度の測定には、微少面積(ストランドの径以下)の温度測定ができるスポットタイプの非接触赤外線放射温度計を使用すると簡便に測定できます。
図4-3-1 スミカスーパーLCPの樹脂温度の管理方法
スミカスーパーLCPは成形時の溶融粘度が低く、固化速度が速いため、バリが出にくい特徴があります。ただし超薄肉製品の成形(<0.2mm)においては、薄肉部で樹脂が固化し十分な流動長が得られない場合があります。こうした場合の対策として、射出時の立ち上がり特性に優れた電動射出成形機や、アキュムレータ付の油圧射出成形機の適用が有効です。
図4-3-2 バリ発生を伴わない最大流動長
油圧射出成形機:
UH-1000[日精樹脂工業(株)]
電動射出成形機:
SE・SVシリーズ[住友重機械工業(株)]
電動射出成形機:
FANUC ROBOSHOT α-Siシリーズ[ファナック(株)]
電動射出成形機:
LP・TRシリーズ[ソディック(株)]
図4-3-3 射出速度波形の比較
(汎用成形機と比較し、高速成形機は射出速度の初期立ち上がりが速く、所定の射出速度で成形されていることを示している)
流動長測定金型: | 図4-3-5のものを使用 |
成形温度: | 360℃ 使用グレード:E6008 射出速度 600mm/sec V-P切り替え圧力 60MPa |
汎用成形機: | 日精樹脂工業 PS-40E5 ASE 射出速度 90% 射出圧力 90MPa |
スミカスーパーLCPは射出成形する(せん断をかける)ことにより、分子が容易に流れ方向に配向し、優れた流動性とともに高強度、高弾性な成形体が得られますが、一方で異方性が発生します。金型の設計にあたっては、キャビティ内の流動パターンと異方性を十分考慮する必要があります。
図4-3-4 スプル図
図4-3-5 薄肉流動長測定金型(単位: mm)
製品厚み:0.3mm
流動長は4キャビティ
図4-3-6 薄肉流動長
スミカスーパーLCPはウエルド強度が他のエンプラに比べ低いため、できるだけウエルドが発生しないよう、ゲートは極力1点とし、ゲート位置を十分考慮する必要があります。
図4-3-7 ゲート図
一般的に樹脂は長期連続成形において成形機内のデッドスペース部に滞留し、滞留樹脂が劣化、着色することがあります。溶融粘度が極めて低いLCPでは、このデッドスペース部の滞留が起こりやすいと考えられます。そのため、これらを考慮したホットランナが望ましく、特に樹脂の滞留による黒点、コールドスラグが発生しないように十分な注意が必要です。
スミカスーパーLCPのホットランナの選定の際は、下記のポイントに注意してください。
高温加熱が可能でシステム内の温度分布が均一であること。
ヒーター一体型が望ましい。過度にマニホールド、ノズルの温度は高くしないこと。
金型との接触部(ゲート部分)の温度を高温に保持できること。
表4-3-1 ホットランナの温度仕様
ホットランナの温度仕様(MAX) | |
---|---|
E6000HFシリーズ | ~370℃ |
E6000シリーズ | ~380℃ |
E4000シリーズ | ~400℃ |
E5000シリーズ | ~420℃ |
表4-3-2 スミカスーパーLCPへのホットランナの適用
ランナ部 | ゲートシール | スミカスーパー LCPへの適用 |
備考 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
内部 加熱 |
外部 加熱 |
オー プン |
バルブ ゲート |
熱シール | 完全 ホットランナ |
スプルレス 成形 |
|||
(株)十王 614システム |
- | ○ | - | - | ○ | - | ○ | φ4 電磁誘導加熱 |
|
明星金属(株) ミニランナ |
- | ○ | ○ | - | - | × | △~○ | *1 | |
世紀工業(株) スピアシステム |
Bタイプ(従来) | ○ | - | - | - | ○ | × | × | |
EHタイプ | - | ○ | - | - | ○ | × | ○ | *2 | |
モールドマスター(株) マスターショット |
- | ○ | ○ | ○ | - | × | △~○ | ||
斉藤工機(株) プラゲートシステム |
- | ○ | - | - | ○ | × | △ |
◎:スミカスーパー LCPへの適用事例あり。
○:スミカスーパー LCPへの適用可。
△:スミカスーパー LCPへの適用事例なし。
×:スミカスーパー LCPへの適用不可。
*1: | 多点ゲートで、且つミニランナ用延長ノズルを用いる場合は、各延長ノズルを個々に温度コントロールする方が望ましい。また、成形温度の高いE5000系も各ノズルを個別に温度コントロールする方が望ましい。 |
*2: | チップ部は内部加熱方式 |