スミカスーパーLCPの推奨成形条件や条件範囲などの代表的な成形条件を下記に示します。スミカスーパーLCPでは樹脂温度の管理が非常に重要です。シリンダの設定温度と実際の樹脂温度が乖離している場合には、実際の樹脂温度で管理する必要があります。
表4-1-1 スミカスーパーE5000、E4000、E6000シリーズの一般的な成形条件
E5000 シリーズ |
E4000 シリーズ |
E6000 シリーズ |
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推奨条件 | 条件範囲 | 推奨条件 | 条件範囲 | 推奨条件 | 条件範囲 | ||
樹脂乾燥 | 温度 | 130 | 120~140 | 130 | 120~140 | 130 | 120~140 |
時間 | 5 | 4~24 | 5 | 4~24 | 5 | 4~24 | |
シリンダ温度(℃) | 後部 | 340 | 330~360 | 320 | 310~340 | 300 | 280~320 |
中央部 | 380 | 370~390 | 360 | 350~370 | 330 | 320~340 | |
前部 | 400 | 390~410 | 380 | 370~390 | 360 | 340~370 | |
ノズル | 400 | 390~410 | 380 | 370~390 | 360 | 340~370 | |
適切な樹脂温度(℃) | 400 | 390~410 | 380 | 370~390 | 360 | 340~370 | |
金型温度(℃) | 70~90 | 60~160 | 70~90 | 60~160 | 70~90 | 60~160 | |
樹脂圧力(MPa) | 120~160 | 80~160 | 120~160 | 80~160 | 80~160 | 80~160 | |
保持圧力(MPa) | 40~60 | 10~80 | 40~60 | 10~80 | 10~40 | 10~80 | |
保圧圧力時間(sec) | 0.2~0.5 | 0.2~1 | 0.2~0.5 | 0.2~1 | 0.2~0.5 | 0.2~1 | |
スクリュ背圧(MPa) | 0.5~1 | 0.5~5 | 0.5~1 | 0.5~5 | 0.5~1 | 0.5~5 | |
射出速度(mm/sec) | 50~200 | 50~400 | 50~200 | 50~400 | 50~200 | 50~400 | |
スクリュ回転数(rpm) | 50~250 | 50~350 | 50~250 | 50~350 | 50~250 | 50~350 | |
サックバック(mm) | 1~2 | 0~2 | 1~2 | 0~2 | 1~2 | 0~2 |
表4-1-2 スミカスーパーSV6000、SR1000、E6000HF、SV6000HF、SZ6000HF、SR2000シリーズの推奨成形条件
SV6000、SR1000 シリーズ |
E6000HF、SV6000HF シリーズ |
SZ6000HF、SR2000 シリーズ |
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推奨条件 | 条件範囲 | 推奨条件 | 条件範囲 | 推奨条件 | 条件範囲 | ||
樹脂乾燥 | 温度 | 130 | 120~140 | 130 | 120~140 | 130 | 120~140 |
時間 | 5 | 4~24 | 5 | 4~24 | 5 | 4~24 | |
シリンダ温度(℃) | 後部 | 300 | 280~320 | 300 | 280~320 | 300 | 280~320 |
中央部 | 330 | 320~340 | 330 | 320~340 | 330 | 320~340 | |
前部 | 360 | 340~370 | 350 | 340~370 | 350 | 330~370 | |
ノズル | 360 | 340~370 | 350 | 340~360 | 350 | 330~360 | |
適切な樹脂温度(℃) | 360 | 340~370 | 350 | 330~360 | 350 | 330~360 | |
金型温度(℃) | 70~90 | 60~160 | 70~90 | 60~160 | 70~90 | 60~160 | |
樹脂圧力(MPa) | 80~160 | 80~180 | 80~160 | 80~180 | 80~160 | 80~180 | |
保持圧力(MPa) | 10~40 | 10~80 | 10~40 | 10~80 | 10~40 | 10~80 | |
保圧圧力時間(sec) | 0.2~0.5 | 0.2~1 | 0.2~0.5 | 0.2~1 | 0.2~0.5 | 0.2~1 | |
スクリュ背圧(MPa) | 0.5~1 | 0.5~5 | 0.5~1 | 0.5~5 | 0.5~1 | 0.5~5 | |
射出速度(mm/sec) | 50~200 | 50~500 | 50~200 | 50~500 | 50~200 | 50~500 | |
スクリュ回転数(rpm) | 50~250 | 50~350 | 50~250 | 50~350 | 50~250 | 50~350 | |
サックバック(mm) | 1~2 | 0~2 | 1~2 | 0~2 | 1~2 | 0~2 |
スミカスーパーLCPは吸水率が0.02%と非常に低いため長時間の乾燥は不要ですが、適切な物性を出すために0.01% まで乾燥して成形することを推奨します。一般的にはホッパードライヤーを用いて4時間以上24時間以内、130℃を目安に乾燥することを推奨します。成形中はホッパーでの吸湿を防ぐため、除湿乾燥機やホッパードライヤーをご使用ください。高すぎる乾燥温度は樹脂を劣化させる場合がありますので、乾燥温度は130℃を中心としてください。
図4-1-1 スミカスーパーLCPの乾燥曲線
(1)シリンダ前部およびノズル部の温度
どの樹脂にも共通しますが、適正な樹脂温度にコントロールすることが必要となります。スミカスーパーLCPのシリンダ前部の温度は、E5000シリーズの場合390~410℃、E4000シリーズの場合370~390℃、E6000、SV6000、SR1000シリーズの場合340~370℃、E6000HF、SV6000HF、SZ6000HF、SR2000シリーズの場合330~360℃に設定します。高流動性が要求される複雑な形状のもの、また長軸と短軸の差が大きなものを成形する場合には、シリンダ前部の温度を高めに設定してください。条件範囲より10℃以上温度が高くなると、射出時に樹脂がホッパー側にバックフローしやすくなるため好ましくありません。
シリンダ温度は、E5000シリーズで400℃以上、E4000シリーズで380℃以上、E6000、SV6000、SR1000シリーズで340℃以上、E6000HF、SV6000HF、SR2000シリーズで330℃以上の成形温度で安定した物性が得られます。用途によっては、これ以下の温度で成形を行っても実用上問題のない物性を得ることができますが、温度を下げすぎると物性低下をともなう場合があります。
ノズル部の温度の管理は、樹脂温度に影響しやすく非常に重要ですので、温調センサーの位置や保温には十分に気をつけてください。ノズル部の設定温度と実際の樹脂温度に乖離がある場合には、実際の樹脂温度での管理が必要となります。ノズル部の温度が高すぎるとドローリングや糸引きが、低すぎるとコールドスラグが発生しやすくなります。
(2)シリンダ後部温度
スミカスーパーLCPのシリンダ後部の温度は、シリンダ前部よりも低くしてください。E5000シリーズの場合330~360℃、E4000シリーズの場合310~340℃、E6000、SV6000、SR1000、E6000HF、SV6000HF、SZ6000HF、SR2000シリーズの場合280~320℃に設定します。シリンダ後部の温度が高い場合、樹脂がホッパー側にバックフローしやすくなり、計量が安定しにくくなります。
図4-1-2 引張強度の成形温度依存性
(1)射出圧力
スミカスーパーLCPは溶融粘度が低く流動性に優れているため、あまり高い射出圧力を必要としません。E6000シリーズを例にとると、成形温度を350℃以上に上げることにより40MPa程度の低圧でも十分な流動性を示します。また樹脂の固化が速いことから、保持圧力を65~160MPaの範囲で変化させても引張強度はほとんど変化しません。
(2)射出速度
薄肉で複雑な形状を有するものについては、中~高速の射出速度での成形が望まれます。また、超薄肉製品の成形(0.2mm以下)においては、薄肉部で樹脂が固化し十分な流動長が得られない場合があるため、射出速度の立上り特性に優れた成形機を使用してください(高速成形技術参照)。
スミカスーパーLCPは一速の射出速度でも成形可能ですが、ノズルからのジェッティングを避けるために、スプルやランナ通過時は充填速度を下げ、ゲート通過時から高速で充填し、充填終了直前で充填速度を下げる設定も安定的な成形に効果的です。
比較的厚肉の製品でウエルド部が問題となる場合は、金型内のエアベントを考慮した上で、20~60mm/secの中・低速が適しています。
スミカスーパーLCPは、分子が剛直なため溶融状態においても絡み合いがなく、成形時のせん断により高分子鎖が流動方向に配向します。また、固化速度が非常に速いため、固化時においても溶融時の配向状態を維持しており、金型温度による力学物性への影響はほとんどないため、非常に広範囲の金型温度で成形できます。
薄肉の製品を成形する際、成形サイクルを重視する場合は60~100℃に、薄肉での流動性、ウエルド強度を考慮する場合は100~150℃に、成形表面の平滑性を重視する場合は160℃以上に設定することを推奨します。また、形状が複雑で離型が問題となる場合には、金型温度を低温に設定してください。金型表面温度は、冷却水以外にいろいろな要因で変動しますので、起動時や大きな設定変更の後は必ず測定をしてください。
図4-1-3 金型温度と物性の関係
スミカスーパーLCPは計量(可塑化)を安定させるために、シリンダ後部の温度をシリンダ前部よりも低くしてください。E5000シリーズの場合330~360℃、E4000シリーズの場合310~340℃、E6000、SV6000、SR1000、E6000HF、SV6000HF、SZ6000HF、SR2000シリーズの場合280~320℃に設定してください。
計量時にスクリュ回転数を高速に設定すると、計量時間を短くすることができます。ただし、スクリュ回転数が速すぎると、ガラス繊維などの充填材の破壊が起こる可能性があります。小径のスクリュでは、供給部のフライトの深さで計量能力が決定しますので、成形機の選定項目を参照いただき、適切なスクリュを選定してください。
背圧については、小さいほど計量性が安定しますので、可能な限り小さい値を設定してください。
スミカスーパーLCPのサックバック(スクリュ減圧)は、必要な場合に最小値で設定してください。サックバックを大きく設定すると、ノズル部において空気を巻き込みやすくなり、ブリスタなどの成形不良が発生しやすくなります。ノズルからのドローリングに対しては、樹脂の乾燥温度やノズル温度のコントロール、必要に応じてLCP専用ノズルを使用することで制御できます。
スミカスーパーLCPはパージ材を含む他樹脂に比べて溶融粘度が極端に低いため、パージによる置換の際には他樹脂やパージ材が残留しないように注意が必要です。パージする際はスミカスーパーLCPを置換しやすくするために、通常の成形時よりもシリンダ温度を20~30℃程度下げ、スミカスーパーLCPの溶融粘度を上げることを推奨します。パージの実施にあたっては、加工温度の高いE4000シリーズ、E5000シリーズでは発煙、ガス噴出、樹脂の飛散等があることを十分に考慮してください。
スミカスーパーLCPのパージにおいては、市販されているパージ材が使用可能であり、以下のパージ材の使用実績があります。高温のシリンダ内にパージ材を長時間滞留させると分解する恐れがあるためご注意ください。
■成形中断後に同一グレードを使用する場合
成形を15分間以上中断する場合は、シリンダから樹脂を取り除き、シリンダ温度を250℃程度に下げてください。成形を再開する際には、下記手順のパージを実施してください。また、数時間にわたって成形を停止させた後に、同じグレードを使用して作業を開始する際も、同様に下記手順のパージを実施してください。
表4-1-3 スミカスーパーLCPのサイクル中断時のパージ、定常のシャットダウン手順
終了操作と再開操作は、成形機を停止する場合と再起動する場合の手順となります。
同一グレードを使用して作業開始する場合は、下記5、6、7を省略してください。
1 成形終了 | 先行樹脂(ホッパー内、シリンダ内)を射ちきる |
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2 パージ材投入 | 成形温度のまま、パージ実施 |
3 パージ続行 | シリンダ温度を成形温度より20~30℃低く設定 |
4 樹脂置き換え | パージ材射ちきり後、ただちにスミカスーパー LCPを投入 シリンダ内をスミカスーパー LCPで置換 |
5 (終了操作) | 電源OFF(降温途中で可) |
6 (再開操作) | 電源ON シリンダ温度を成形温度より20~30℃低く設定 |
7 予備パージ | 20~30℃低いまま、スミカスーパー LCPでパージ(5ショット以上) |
8 生産開始 | シリンダ温度昇温(成形温度まで)後、スミカスーパーLCPで5ショット以上パージし、生産開始 (注)同一グレードの色替えの場合は、上記5、6、7を省略してください |
■スミカスーパーLCPに切替える場合
成形が完了して別のグレードの材料へ変更するときは、以下の手順を実行してください。
表4-1-4 先行樹脂からスミカスーパーLCPへの切替方法
1 成形終了 | 先行樹脂(ホッパー内、シリンダ内)を射ちきる |
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2 シリンダ昇温 | スミカスーパー LCPの成形温度より20~30℃低く設定 |
3 パージ材投入 | 上記設定温度に昇温後、ただちにパージ材投入 (注)昇温後、回転防止機構が作動していないことを確認 |
4 樹脂置き換え | パージ材射ちきり後、ただちにスミカスーパー LCPを投入 シリンダ内をスミカスーパー LCPで置換 |
5 再開操作 | シリンダ温度をスミカスーパー LCPの成形温度に設定 |
6 生産再開 | シリンダ昇温後、スミカスーパー LCPで5 ショット以上パージし、生産開始 |
スミカスーパーLCPは固化が速く、熱伝導率が高いため高流動でバリが発生しにくく、薄肉、小型の電子部品を成形するのに適した材料です。
スミカスーパーLCPのバリ特性評価結果を下図に示します。この図は良成形領域と不良成形領域(ショートショット、バリが発生する領域)を示します。
スミカスーパーLCPはショートやバリが発生しない良成形領域が広く存在するのに比べ、PPSやPBTはバリが発生し易く、薄肉成形時では良成形領域を確保するのが困難です。
図4-1-4 バリ特性評価用金型
図4-1-5 バリがでない成形領域の樹脂間の比較
(a)スミカスーパー E6008
(b) PPS-GF40%
(c)PBT-GF30%
成形機: | 日精樹脂工業株式会社製 PS10E1ASE |
射出率: | 32cm3/sec, |
射出圧力: | 100%=200MPa |